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飛行機は時間通り、14 時にハバナに 輪行袋に入れた僕の自転
降り立った。外に出ると思ったより暑く 車は……ない。人々は次々
ない。日本の初夏ぐらいか。今は1月で に自分の荷物を受け取っ
北半球のキューバも真冬だが、常夏のイ て出ていく。心の中で手
メージがあったので苛烈な暑さを想像し を合わせる。届かなかっ
ていた。 たら目も当てられない。
イミグレーションは長蛇の列だった。 だんだん人が少なくなっ
一刻も早く空港を出たいのに……。これ てきた。まさか。いやで
から自転車を組み立て、25 ㎞先のハバナ も社会主義国だから何が
キューバ 編 中心部まで走り、宿に入らなければなら 起こるか……。そんな堂々
ないのだ。初めての国で、暗くなってか 巡りをしていると、来た! 空港を出てすぐの大通り
第9 話
ら荷物を持ったままうろうろしたくない。 僕の自転車だ! 全身から
空港の外から始まる じりじりしながら列に並んでいると、 ため息が出た。でもまだ不安が解消され ちょっと珍しい。
別世界
徐々に前に進み、ようやく自分の番が近 たわけではない。手荒に扱われて破損し 外に出ると、タクシーが走っているの
づいてきた。係員がツーリストと笑顔で ていないだろうか。前回のブータンはひ が見えた。徐行しているのかと思うほど
話をしている。手は止まったままだ。こ どかったのだ。致命傷ではなかったもの 遅い。東欧や中央アジアなど、かつて社
United States んなに人が並んでいるのに何をしてるん のフレームが曲がっていて肝を冷やした。 会主義だった国々も、人や車がゆっくり
だ。頭がカッカしてきたが、この効率軽 荷物と輪行袋に入れた自転車をカート 動き、社会全体がスローに見えたもの
視ののどかさが社会主義国なのだ。別世 にのせて税関を通り、到着ロビーに出る。 だった。
Brazil
界のムードを味わいたくて来ているのだ 祈る思いで輪行袋を開けると、うわっ、な 地面を蹴って走りだす。路面は悪くな
が、世界でも有数の几帳面さと忙しさを んじゃこりゃ! 脂汗がにじみ出てきた。 い。空港周辺だからかな。
持つ国、日本から来ると、慣れるまで多 実は出発前に自転車のパーツを新調 大通りに出たところで、サッと肌が粟
少時間はかかる。 していたのだ。その真新しい泥除けがぼ 立った。それがキューバを象徴する光景
やっと僕の番が来た。通り一遍の質疑 こぼこに曲がっている。マジかよ、ふざ だとは知っていた。ただ、これまで同様、
応答なのに、わざとなの? と首を傾げ けんなよ、ぶつぶつそう言いながら、ペ 視覚的な情報からできるだけ自分を遠ざ
●石田ゆうすけ:
旅行作家。7年 たくなるぐらいテンポが遅い。体感で 10 ンチで矯正し、自転車を組み立てていく。 けてきたのだ。だから実際それをこの目
半かけて自転車 分ぐらいやりとりして、なんとか入国が どうやら見た目が悪くなっただけで、走 で見たときは驚嘆し、次いで体の奥から
で世界一周を敢
行。9万5千キ 許可された。 行には支障がなさそうだ。ふう。 一気に熱が込み上げてきた。
ロ、87ヵ国を走
り、2002 年 末 次に荷物の受け取りだ。ここが最も緊 あらためて到着ロビーを見回した。首 キューバは正真正銘の別世界だった。
に帰国。現在は 都の国際空港とは思えないほどのどかだ。 本当に時間が止まっていた。そう、ボロ
全国各地で講演も行う。著書に『行かずに死ねる 張する。自転車はきちんと同じ飛行機に
か!』『地図を破って行ってやれ!』ほか。ブログも更 乗せられただろうか。 ギラついた目で客引きしている者たちが ボロのクラシックカーが何台も道路を
新中→「石田ゆうすけのエッセイ蔵」
ターンテーブルはすでにまわっていた。 いない。いわゆる第三世界の空港では 走っていたのだ。
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5 3 OCT 2019 / No 1106
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